症状固定とは、交通事故の被害で負った怪我について治療を継続しても症状が改善しないと医師により判断された状態をいいます。
交通事故の被害にあったとき症状固定は重要な意味を持ちます。
交通事故の直後から症状固定までは入通院慰謝料、休業損害、治療費を請求しますが、症状固定後は後遺障害等級の認定を受けて、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することになります。
症状固定は交通事故の損害賠償額を決める上で非常に重要です。しかし、保険会社から勝手に症状固定を主張されることもあります。交通事故の損害賠償で損をしないように、症状固定についてしっかり知っておきましょう。
1. 医学の観点における症状固定
1.-(1) 症状固定=治療終了
症状固定とは、医学の観点からは、治療を続けても大幅な改善を見込むことができず、症状が回復・憎悪のいずれも見込まれないことをいいます。
ただし、症状固定は必ずしも完治を意味するのではなく、症状が残っているもののこれ以上は改善しない状態をいうことに注意が必要です。
例えば、交通事故の被害にあってむちうち症になったとき、一定期間は通院治療により痛みを緩和・改善することができます。
もちろん、治療によって痛みが完全に無くなるのがベストですが、残念ながらいつまでも痛みが残ってしまう場合があります。
完治した場合だけでなく、症状が残るような場合でも、医師によって治療を行っても症状が改善しないと判断されば症状固定状態となります。
1.-(2) ポイント:症状固定は医師が判断
医学的観点から症状固定を判断するときにポイントになるのは、あくまで症状固定は医師が判断するものだということです。
なぜ、症状固定を誰が判断するかがポイントになるかというと、保険会社が治療打ち切りを告げてくる場合があるからです。
治療が長引くと治療費や入通院慰謝料が高額化するため、交通事故の示談金額を抑えたい保険会社はできるだけ早期に治療を終了するように言ってきます。
- この程度の怪我であれば一般的な治療期間は3か月程度だ
- これ以上治療をするなら治療費を支払わない
- 治療が長引くと示談金を減らす
しかし、治療の必要性・相当性はケースバイケースですし、現実にあなたの症状を診察している医師が最も正確に判断を行うことができます。
裁判所も原則として医師の診断内容は尊重します。従って、保険会社から何と言われおうとも、医師が治療を続行する必要性があると判断すれば通院や治療を継続するべきです。
1.-(3) 治療期間の目安:6か月
もっとも、保険会社から強く治療打ち切りを主張されると不安と思われるかもしれません。
交通事故の被害で相談が最も多いのはむちうち症のご相談です。むちうち症の治療期間としては、概ね3か月から6か月程度と言われることがたしかにあります。
従って、むちうち症に関しては概ね6か月程度は治療期間の目安として考えて良いでしょう。
もっとも、事故直後から同じ箇所が継続的に強く痛むような場合で、医師の判断で治療継続をすることもあり得ます。最終的にはやはり医師の診断によって症状固定を判断することになります。
2. 交通事故示談の観点
症状固定は、交通事故示談においても大きな意味を持ちます。
2.-(1) 症状固定前:入通院慰謝料・休業損害・治療費
症状固定前は、交通事故の被害者は入通院慰謝料・休業損害・治療費などの補償を受けることができます。
症状固定前とは、要するに交通事故の被害で負った怪我を治療している状態です。
交通事故示談のポイントとしては、症状固定前の損害項目は既に生じた損害であるということです。
交通事故の被害にあったために治療を余儀なくされたことによる治療費や、治療で入通院をせざるを得なくなった入通院慰謝料、及び治療で仕事ができなくなったための休業損害などが請求できるのです。
2.-(2) 症状固定後:後遺障害等級の認定
これに対し、症状固定後に重要となるのが後遺障害等級の認定です。仮に、症状固定(=治療が終了)しても症状が残る場合でも、それだけで損害賠償を請求することはできません。
治療が終了した段階で痛みが残っている場合は、それが交通事故の被害によって生じた後遺障害であること、及びその後遺障害の重さの認定を受ける必要があります。
後遺障害等級は労災でも問題になるものですが、自賠責損害調査事務所に認定請求を行うことで回答を得られます。
単に痛みが残っていると思っても、後遺障害等級として認定を受けられなければ原則として症状固定後の痛みに対する慰謝料等は補償されません(症状固定前の入通院慰謝料・休業損害・治療費のみの請求になります。)。
後遺障害等級の認定は非常に重要なので、症状固定直後には交通事故に強い弁護士に無料相談することをおすすめします。
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2.-(3) 後遺障害等級の認定を受けた場合:後遺障害慰謝料・逸失利益
症状固定(=治療が終了)で完治すればベストですが、残念ながら治療を継続しても改善できない症状が残る場合もあります。
残った症状について後遺障害等級が認定されたときは、後遺障害慰謝料・逸失利益が問題となります。
症状固定後に問題となる後遺障害慰謝料・逸失利益のポイントは、将来生じる精神的苦痛や減収分を現時点で損害賠償請求することです。
後遺障害として認定された症状とは今後も付き合っていくことになるため、損害が生じるたびに損害賠償請求をすることはできません。
そのため、後遺障害等級に応じて精神的苦痛や減収分を仮定して損害賠償請求を行うことになります。
このように症状固定前後によって、補償される損害項目が大きく変わる点が交通事故示談における症状固定の重要性となります。
3. なぜ保険会社が症状固定や治療打ち切りを言うのか
3.-(1) 保険会社は交通事故被害者の味方ではない
保険会社は親切・丁寧に対応をしてくれますが、残念ながら交通事故の被害者ではありません。保険会社がシビアな回答をした場合はこの点を認識することが重要です。
保険会社はあなたに支払う保険金を抑えることが利益に繋がります。従って、保険会社はできる限りあなたに補償する保険金額を抑えたいという意向があります。
3.-(2) 治療期間を短縮すれば症状固定前の損害額を抑えられる
症状固定前は、いずれも治療期間が長期化するほどに補償は高額化します。
例えば、入通院慰謝料は、通院期間が長引けばその分精神的苦痛も大きくなると判断され高額化します。具体的には、通院3か月だと約75万円程度が適正金額ですが、通院6か月になると約115万円程度になってしまいます。
休業損害や治療費も当然のことながら治療期間が長期化するにしたがって高額になってしまいます。
そのため、保険会社としてはできる限り治療期間を短縮したいという考え方があるのです。
3.-(3) 事前認定による後遺障害等級の認定
また、症状固定となると後遺障害等級の認定手続の案内があります。後遺障害等級の認定は交通事故被害者が行う被害者請求と保険会社に任せる事前認定があります。
保険会社に任せる事前認定は一見すると手間が省けて便利ですが、書類内容の不備や漏れが見逃されて適正な後遺障害等級の認定が受けられない可能性があります。
一般的には、交通事故を弁護士に依頼して、被害者側の弁護士が被害者請求の方法で後遺障害等級の認定申請を行うことで有利に手続が進められます。
また、他覚症状のないむちうち症のような場合は後遺障害等級の認定でも治療期間が重要な意味を持ちます。
長期間にわって同じ箇所に継続的な痛みが生じていたとなれば、後遺障害として認定されやすくなります。これに対して治療期間が短期間であれば、さほど重篤な症状ではないと判断されかねません。
早期に治療を終了して後遺障害等級の認定申請を保険会社が行おうとするのは、このような思惑があるのです。
症状固定の時期を判断するのは医師であり、また、後遺障害等級の認定は交通事故示談で非常に大きな意味をもちます。
いずれも保険会社に任せるのではなく、きちんと医師や弁護士に相談をすることが重要です。もし症状固定について不安な点があれば早めに弁護士の無料相談を利用することをおすすめします。
4. 症状固定後の治療費
症状固定は、治療を継続しても症状改善が見込めない状態のことです。従って、症状固定後は原則として治療は必要ないことになるため、治療費を請求できなくなります。
この点を踏まえて、保険会社側は「症状固定なので治療費を支払わない」と主張するのですが、前述の通り症状固定はあくまで医師が判断するものです。
それでは、保険会社の一方的な言い分ではなく、医師が症状固定と判断した場合は症状固定後の治療費は一切認められないのでしょうか。
この点に関しては、一般的には症状固定後の治療費は請求できないのが原則ですが、リハビリテーションなどで必要な場合は請求ができる場合もあります。
原則としては、自力で移動が困難な重篤な症状を負ったときに、やむをえず入院せざるを得なかったような場合に例外的に認められます。
しかし、運動制限や疼痛による後遺障害12級の事案において、症状固定から約1年3か月の治療費について保存的治療の必要性を認めた裁判例もあります(神戸地裁平成10年10月8日判決)。
症状の内容・程度や治療の必要性・相当性が厳格に判断されますが、症状固定後も治療費の請求が認められる場合があることは覚えておくと得する知識かもしれません。
5. まとめ
今回は症状固定に関して解説しました。交通事故の被害にあって慰謝料相場や示談の流れを調べていると必ず出会うのが症状固定という言葉です。
症状固定は交通事故の被害者にとって非常に重要ですので、しっかり確認するようにしてください。